新NTSシリーズSSB/CWハンディトランシーバ開発経過(1999年6月開始〜2000年1月完了)

1.開発の概要

 周波数=144MHzおよび430MHz帯の各シングルバンドハンディ機
 送信出力=1W
 外観はNTS200,700に準ずる
 変調形式はSSBおよびCW(サイドトーン及びセミブレークイン機能付き)
 周波数設定=小型サムホイールSW +5kHzUP-SWおよびFINE-TUNE (PLL内蔵型)
 周波数カバー範囲を1MHzに広げ、安定度を良くする
 
パネル図-----(n2-pnl27.pdf 13KB)
 
     (NTSシリーズハンディ機回路の特徴)
     (NTSシリーズハンディ機SSBジェネレータの秘密)
 
 

2.開発時期

NTS210(144MHz)とNTS710(430MHz)は開発完了しました。発売中です。
 
3. NTS210開発経過('99年11月末開発完了)
3.1 PLL回路(PLL回路の実験--- '99年6〜8月)
下の写真はPLL実験用試作基板で、120MHz帯(144MHz用局発)と200MHz帯(2逓倍して430MHz用局発)に使用します。
 SSB用のPLL回路は高安定でなければなりません。
従って局発も低い周波数で作成してプリミクサで高い周波数に変換する方法が設計しやすいが、ハンディ機の小型で
ローコストの条件に合わなくなってきます。
 この問題点がSSBハンディ機の最大の難関でトランシーバとしての品質を左右する重要なポイントになる。
 今までの実験ではVCOの可変範囲を出来るだけ狭くして2〜3MHz以内とし、その内1MHz以内を使用する設計でPLL単体
としてはプリミクサ無しで実用的な安定度が得られている。
(VCOの可変範囲を広くするとジッタが大きくなって音質が劣化してしまうので、この辺りのさじ加減がノウハウになる)
 アンテナ直結での運用ではトランシーバの内部も強電界にさらされます。
送信電波がPLLに回り込まないように配置やシールド等を考慮する必要があります。
 また、今まで使用していたPLL-ICは廃止品種になっていくものが多く、ICの選定にも気を使います。
 
  PLL実験基板
 
3.2周波数制御
 PICマイコンでサムホイールSWの表示に従いPLL-ICをコントロールします。
マイコンソフトも出来てPLL回路と組み合わせて実験中です。
一応目的の周波数で動作したので詳しく調査中。
  
3.3変調音モニター実験(144MHz)
 PLL回路にシールド板を付けてNTS-200に接続し、送信音声を受信してみました。
 送信出力1W時に電源電圧の変動で音声が大きく歪んでしまうことがわかったので、
 PLLの電源ラインにトランジスタ1ケでリップルフィルタを組んで追加しました。
 これで実用上問題ない安定度になったと思われます。
 
3.4 PLL回路出力スペクトル(144MHz用)
 PLLから出力される信号をスペクトルアナライザで測定した図です。
 近傍のスプリアスは-70dB以下で、ハンディ機用としては良好な特性が得られています。
 (SPAN=200MHz,CENTER FREQ.=100MHz)
 
 
3.5回路 (99年9月)
 
 基礎実験が終了し、トランシーバとしての回路図が出来てきました。
回路は、旧機種にPLL部を追加する形になりますが、大半チップ部品に置き換わります。
 MAINの回路は、当社独自の開発による音声反転IC利用のハイフレSSBジェネレータを踏襲します。
これにより430MHzにおいてもシングルコンバージョンを可能にしています。
 これからプリント基板のパターン設計に入ります。
 
 
3.6プリント基板設計(99年10月)
 基板パターン図は高周波回路の設計の中では、回路図と同じレベルで性能を左右する重要な作業です。
PIC-ICのところだけ裏面にも部品が付いてしまいましたが、その他の裏面はほぼ全面グランドにしました。
 
基板図-pdf(2000.1.21改版)---95KB
 
SSBジェネレータ部試作回路-pdf(NTS210用)---BFO周波数シフト回路 T6V-->R6Vに訂正 '991019
 
3.7 試作機(NTS210)試験調整(99年11月)
  出来てきたプリント基板にNTS210の部品を組み込んで、実験中です。
 50Ωのダミーロードでは割合安定に動作しますが、アンテナ直結では異常発振と、PLLへの回り込みがありました。
  異常発振対策で終段のベースに直列に10Ωを入れました。
 直結アンテナからPLL回路への送信高周波の回り込みはかなり大きいので、シールド板をかぶせるのと、
 さらに接続コネクタの根本に、0.01μFのコンデンサを追加しました。
 これで、1W(144MHz)出力でアンテナ直結でも安定に動作するようになっています。
 その他変更がいろいろありますが回路図は整理して後日更新します。
  (ケースは来週入手予定で、現在は旧ケースで実験中)
 
   ---------------六甲山頂で実験-------------------
  六甲山頂付近でSSBハンディ1Wホイップアンテナ(電源=単三6本内蔵電池)から三重県の四日市までM5で届ことを確認。
 八木アンテナは持っていかなかったが、使えばさらに相当遠くまで届きそうです。
 受信の選択度はやはり大型機種には劣りますが、HFのような重なり合う程の混信でなければ実用上問題無い
 ようです。
  送信は変調特性を改善するべきところがありました。
 深い変調のピークで音が歪むとのことで確認したところ、SSBジェネレータのキャリア
 周波数が変動しやすいことが分かりました。---アンテナのSWRが悪いと変動しやすい、
 BFOの電流を多目にしてみると安定になるので抵抗を変更しました。
 受信時の消費電流が少し増えて約40mA(無信号時)
 PLLの周波数安定度は問題無しで安定に動作していました。
 
 
 受信感度を測定した結果 0.2μV/(S/N=10dB) で良好です。
 
  色々な動作条件で実験確認中のメイン基板の写真
  塗装前のケースに入ったNTS210試作機の写真(n2-nts210-991110.jpg---48KB)
    (写真NTS210試作機の左側に接続されているのは、実験中のCWバラック基板))
  NTS210試作機のSSB変調を144MHz受信機でモニターした音声 (n2-210ssb-991109.mp3---37KB)
    (マイクからの声と受信スピーカとの間でハウリングさせた音を録音)
  NTS210試作機のCWを144MHz受信機でモニターした音声 (n2-210cw-991109.mp3---84KB)
  内蔵CW基板図 (n2-nts27-cw10a-pt.pdf---19KB)
   ---- CWはサイドトーン及びセミブレークイン機能付き ----
  NTS210回路図最新版 (n2-nts210-sch.pdf)
 
3.8 試作機ラダー形フィルタ特性(99年11月)
 下をクリックすると4段のラダー形の特性図が見られます。(PDFファイル 各19KB)
  21.24MHzラダー形クリスタルフィルタ特性(NTS210用)
  30.41MHzラダー形クリスタルフィルタ特性(NTS710用)
  (不要側波帯抑圧の丸秘(?)テクニック)
 
3.9 電池ホルダ
 単三乾電池6本を内蔵しますが受ける電極がプリント基板の半田メッキ面では接触不良になりやすいとの御指摘。
 調査してみますと、やはり金メッキが特性上良いのですが頻繁に使うと摩耗しやすく寿命が短くなる傾向がある。
 寿命およびコストの観点から、ニッケルメッキの板を貼り付けることとしました。
 
 
 

4. NTS710(430MHz-SSB)開発経過(2000年1月開発完了)

4.1 PLL回路と送信部 (1999年11月〜2000年1月)

  回路を順次試作基板に組んで動作確認しながら進めています。
 PLLへの送信高周波による回り込み易さは、144MHzの時より数倍厳しくなる感じです。
 この対策として、VCO発振コイルは内径1mmというチップコイル並の大きさにしました。
  さらに、送信ミクサ部との間に仕切り板をシールド板として、入れました。
 VCOのバッファアンプ等は、消費電流が多目になって、144MHzの時より全体で20mA程度増えそうです。
 
  ドライブ段までで、50mW出るところまで来ました。もう1段で1W出力に上げる予定です。
 最大出力でアンテナ直結時の回り込みはさらに大きくなりますから、シールド効果の検討がさらに必要です。
 
  ところで、送信ミクサのスプリアスとして、局発信号がそのまま漏れてくる分が一番大きいわけですが、
 それを除くために430MHzよりIF周波数分の約30MHz低いところで、60dB程減衰させるフィルター特性が必要です。
 NTS710では2段の複同調回路をアンプの入力と出力側それぞれに入れます。(144MHzでは2段と1段で充分でした)
 
  430MHzの複同調では、ホットエンドで結合しようとすると0.1〜0.5PF程度の小容量のコンデンサが必要です。
 スペースがあれば基板パターンで作れそうな容量ですが旧機種では2本の線をよじり合わせてコンデンサにした。
 今回は、フラットケーブルの線を2本取り出して平行線のまま約10mmの長さにすると0.2〜0.3PF位で丁度良い。
 この方法は、狭いスペースで量産時の利得のバラツキに対して補正しやすいメリットがあります。
 
 終段まで動作させはじめましたが、現在最大出力が0.5W迄で1Wにはもう少し時間がかかりそうである。
 やはり送信時の消費電流も144MHzより増やさざるを得ない---
 しかし、送信高周波の回り込みは出力が大きくなってきている割には影響が少ない感じです。('99年12月10日)
 
  やっと送信出力1Wまで出るようになりました。 ('99年12月16日)
 まだVCOにシールド板をかぶせていないためであるが、送信高周波の回り込みがあり対策が必要でシールドの構造検討
 送信最大出力も、リニアリティの問題で、もう少し余裕が要るので継続検討中。
 
 最大送信出力は現在9Vで1.4W、12Vで2Wまで出るようになりました。('99年12月17日)
 1W出力時の消費電流は144MHzの時より100mA増えて約600mA (ALCで最大1Wに設定)
 
  送信高周波の回り込み対策は、目途がたってきました。
 144MHzの時と同様のPLL・VCO部シールド板に、PLL部と送信ミクサ部の間へシールド板を追加することで回り込み
 対策は良さそうです。
 
4.2 NTS710受信部 (2000年1月5日〜 )
  受信回路は旧機種とほぼ同じですが、使用部品は大半がチップになり、基板パターンがだいぶ変わりました。
 最初、感度が10dB程低い状態であったが、回路定数を変更して調整した結果、0.3μVまで上がってきました。
 実用レベルに近いが、製造上のバラツキをに対してもう少し余裕が欲しいところである。(2000年1月7日)
  受信高周波増幅からミクサまでの回路定数を変更して感度は、0.2μV(S/N=10dB)になりました。
 製品規格としては、0.25μV以下とします。(2000年1月20日)
 
4.2 NTS710総合調整 (2000年1月)
  送信スプリアスの関係で送信出力が不足してきたので、結局終段トランジスタを変更しました。(2SC3101→2SC3629)
 変更したトランジスタは利得が高く、動作も安定なようです。アンテナ直結で異常発振などが無いことを確認しました。
 ドライバは、2SC3357パラレル。下の内部写真では1個に見えますが2個を重ねてあります。
 これは、基板パターンミスのためで、製品では横に並べる予定。
 プリント基板は、144と430MHz共用としました。
  これで、送信および受信動作の試験調整が完了しましたので製品の製作準備を進めます。
 
NTS710全回路図最新版-----(n2-nts710-sch.pdf 90KB)
 
 NTS710試作機の内部写真

 
5. NTSシリーズ SSB/CWハンディ機 開発のまとめ
  旧機種の製造終了後、間があいていたが、あらためて昨年6月から新機種の開発スタートしました。
 約8ヶ月かかりましたが、皆さんの激励に支えられ、新NTSシリーズの開発が完了したことを報告します。
  今回の開発で最も重要なテーマは、「PLLを内蔵してカバー範囲を広げ周波数安定度を良くする」で、
 基礎実験では、個別の回路動作で実用に耐えうるデータが得られ、8月頃から本格的に開発を進めました。
  その頃からWEB上で状況を公開し始めたところ、色々なメッセージをいただき開発に力が入りました。
 アイデアや激励をいただいた方々に厚く御礼申し上げます。
  開発の初期目標は達成しましたが、まだ課題は多いので良い製品を作れるよう研究を進めて行きます。
 今回の開発では今後の製品にも生かせるような種々のノウハウが蓄積出来たことと、WEBの有用性を確認
 出来たのも、大きい成果でした。
 今後も技術資料公開と、より良い製品の提供で皆様からのアイデアの還元をしていきたい。(2000年1月23日)